連載の最終回となる今回は、国が用意している支援をどう使うか、そして健康経営に前向きな中小企業にとって新しい目標となる制度についてご紹介します。
中小企業が前に進めない、3つの理由
第6回 健康経営推進検討会の資料で、経済産業省は中小企業への裾野拡大が進まない原因を、次の3点に整理していました。
- 取組フェーズに応じた支援ができていない——「これから始める会社」と「もう一歩進めたい会社」に、同じ情報しか届いていない
- 企業へのドアノック方式の支援が不足——関心のない企業には、そもそも情報が届かない
- 地域の相談窓口がない——相談したくても、誰に聞けばよいか分からない
日々、中小企業の経営者の方とお話ししていても、まさにこの3点が壁になっていると感じます。とくに3つ目の「聞ける相手がいない」は深刻です。
国が構築する「2段階支援」の枠組み
これに対し経済産業省は、各地域に切れ目のない支援体制を構築する方針を示しました。企業の状態を2段階に分け、それぞれに別の支援を当てる設計です。
第一段階:関心のない企業・未着手の企業へ
- 経営支援機関(よろず支援拠点・商工会議所等)と、健康づくり支援機関(協会けんぽ等)が連携して普及啓発
- セミナー開催、チラシ配布、個別訪問による「ドアノック」
第二段階:健康経営に取り組みたい企業へ(健康宣言企業=約10万社)
- 自治体・公的機関が専門家の個別支援をコーディネート
- 健康経営エキスパートアドバイザー等のサポーター登録と、企業とのマッチング
「関心がない → 健康宣言をする → 認定を取る」という流れの、それぞれの段階に支援を用意するという考え方です。
支援機関向けの教材が8月に完成予定
具体的な動きとして、経済産業省は健康づくり機関・経営支援機関の担当者向け支援教材を2026年8月目途に作成すると資料に明記しています。
| 章 | 内容 |
|---|---|
| 1 | 本教材の目的と使い方 |
| 2 | 健康経営の意義(特に中小企業が取り組む意義) |
| 3 | 健康経営の効果(経営課題の解決に資する事例・実例) |
| 4 | 認定制度と実践方法(申請書の各設問の趣旨・意図の解説) |
| 5 | 活用できる補助金等 |
注目したいのは第4章です。認定申請書の各設問が「何を意図して聞いているのか」を解説する内容が含まれています。
申請書を前にして「この設問は何を答えればいいのか」と手が止まった経験のある方は多いはずです。そこに公的な解説が用意されるのは、実務上かなり大きな前進だと感じています。
全国で開催されるセミナーと説明ウェビナー
認定事務局(日本経済新聞社)も、今年度は全国5都市でセミナー&カフェテリアを実施しています。
| 開催地 | 日程 |
|---|---|
| 新潟 | 6月10日・11日(終了) |
| 福島 | 7月6日・7日(終了) |
| 札幌 | 10月27日・28日 |
| 神戸 | 11月10日・11日 |
| 高松 | 12月10日・11日 |
内容は2本立てになっています。
- セミナー:これから健康経営に取り組もうとする法人向け。医療保険者や自治体の支援内容、好事例の発表
- カフェテリア:すでに取り組んでいる法人向け。1テーブル10名前後のグループで、課題や工夫を議論・共有
「同じ規模の会社が実際に何をやっているのか」を直接聞ける場は貴重です。最新情報は公式ポータルサイト「ACTION!健康経営」で公開されます。
また今年度は、調査票・申請書の変更点を解説する説明ウェビナーが、質疑応答をリアルタイムで受け付ける形式で開催予定とされています(例年はアーカイブ動画のみ)。申請前に疑問を直接ぶつけられる、またとない機会です。
女性の健康サポートデスクの設置
中小企業向けの相談機能として、「健康経営における女性の健康サポートデスク」の設置も挙げられています。
- 中小企業の課題に応じた個別相談
- 事例紹介
- フェムテック活用の促進
規模の小さい会社ほど女性従業員の比率が高い傾向にあること、そして女性特有の健康課題への対応ノウハウが社内にないことが、設置の理由として資料に示されています。
すでに使える支援もあります
新しい体制の整備を待たなくても、すでに動いている支援があります。資料では東京商工会議所の例が紹介されていました。
健康経営エキスパートアドバイザー(中小企業診断士・社会保険労務士・保健師・労働衛生コンサルタント・健康運動指導士などで、所定の研修を修了した専門家)を派遣し、
- 個々の企業の状況に沿った健康づくりの課題抽出
- 課題を改善する解決策の提案
- 具体的な取り組みの実施サポート
- 健康企業宣言「銀の認定」や健康経営優良法人認定のサポート
を行う制度です(東京都内の中小企業が対象)。同様の支援は、各地の商工会議所や自治体でも整備が進んでいます。
なお民間のコンサルティング会社については、認定事務局が「健康経営コンサルティング自己宣言制度」を運用しており、令和7年7月時点で42社が自己宣言済みです。リストは「ACTION!健康経営」で公開されているため、支援先を探す際の判断材料になります。
京都・大阪・兵庫で、いま使える支援制度
国の体制整備を待たなくても、関西では各府県・市がすでに独自の支援を用意しています。当社の所在地である京都を中心に、実際に使える制度を整理しました。
京都府
- 京(きょう)から取り組む健康事業所宣言(協会けんぽ京都支部)——健康経営優良法人に申請するための前提となる健康宣言事業。必須項目3つ+選択2項目以上、健康づくり担当者(健康保険委員)の登録が必要です
- きょうと健康づくり実践企業認証制度(京都府)——府独自の認証制度。現在募集中です
京都府内の企業は、まず「京から取り組む健康事業所宣言」から始めるのが基本ルートになります。この宣言を出した企業の中から、さらに優れた取組を実践している企業が健康経営優良法人として認定される、という位置づけです。
大阪府・大阪市
- 大阪市健康経営応援プロジェクト「OK!プロジェクト」——大阪市内に本社があり、中小規模法人部門に該当する企業が対象。サポート担当が訪問して職場の状況をヒアリングし、オーダーメイドで施策を提案します。訪問・個別アドバイス・健康講座はすべて無償(認定申請料16,500円税込は別途)。日本生命保険相互会社等のコンソーシアムが実施
- 大阪府健康づくりアワード(大阪府)——特色のある中小企業の健康づくりの取組みを表彰
- 大阪府は健康経営セミナーも継続的に開催しています
大阪市内に本社がある企業にとって、OK!プロジェクトは費用をかけずに専門家の伴走支援を受けられる制度です。認定を目指すなら、まずここに相談するのが最短ルートといえます。
兵庫県
- 健康づくりチャレンジ企業(兵庫県)——県への登録制度
- 兵庫県健康づくりチャレンジ企業アワード——登録企業の中から優れた取組を表彰。2026年6月に第9回表彰式が開催されました
当社がご支援している大塚ファンド株式会社(姫路市)は、従業員9名・全社員フルリモートという体制ながら、第9回アワードで協会けんぽ兵庫支部長賞を受賞されました。企業規模の大小ではなく、取組の実効性と継続性が評価される制度です。
近畿全域
経済産業省の地方支分部局である近畿経済産業局も、ヘルスケア分野の施策として健康経営の普及に取り組んでいます。前述の「地域の経営支援機関と健康づくり支援機関の連携」も、今後この枠組みの中で具体化していくことになります。
京都・大阪・兵庫・滋賀・奈良のいずれの地域でも、「協会けんぽ支部の健康宣言 → 健康経営優良法人の認定申請」という基本の流れは共通です。違うのは、その過程で使える上乗せ支援の中身になります。
中小企業40社が国に選ばれる、新しい制度
ここからは、健康経営に前向きな企業にとって新しい目標になり得る制度の話です。
経済産業省は今回、テーマ別ベストプラクティスの選定を実施する方針を示しました。先進的かつ実効的な取り組みを収集し、大企業10社・中小企業40社を選定して公表する制度です。
エントリーは特別な手続きではなく、認定申請書のアンケート設問(配点なし)に記載する形で行われます。
選定される5つのテーマ
- 女性の健康保持・増進に向けた取組
- 仕事と介護・治療・子育ての両立支援の取組
- 睡眠の質向上に向けた取組
- 高年齢従業員に配慮した健康づくりや職場環境整備の取組
- その他(1〜4に当てはまらない取組)
5番目に「その他」があるのがポイントです。自社独自のユニークな取り組みがあれば、テーマの枠に無理に合わせる必要はありません。
中小企業の応募要件は「ブライト500申請法人であること」
| 区分 | 前提要件 |
|---|---|
| 大規模法人(10社選定) | 健康経営の4側面のうち「1.経営理念・方針」「4.評価・改善」のいずれのスコアも偏差値60以上 |
| 中小規模法人(40社選定) | ブライト500申請法人であること |
さらに共通の前提として、経営方針に基づき健康経営の推進方針・目標・KGIを設定し、目標達成状況の評価を実施していることが求められます。
中小企業の場合、ブライト500に申請していることがスタートラインです。前回お伝えしたとおり、ブライト500・ネクストブライト1000は17項目中16項目以上の充足が必要ですが、申請自体は誰でもできます。
もうひとつ、フィードバックシートが送付されるのもブライト500申請法人のみです。自社の評価結果を受け取れるという点でも、申請しておく価値があります。
審査は「予算」ではなく「工夫」で決まる
| 基準 | 内容 |
|---|---|
| 先進性 | 取り組み内容が先進的か、課題解決の新たな着眼点があるか |
| 横展開の可能性 | 自社だけにとどまらず、他社でも真似できる・真似しやすい取り組みか |
| 実効性 | 施策のKPI達成に対する創意工夫が、どのような効果をもたらしたか |
注目すべきは「横展開の可能性」です。多額の予算を投じた大規模施策よりも、他の中小企業が真似できる工夫のほうが評価される設計になっています。予算規模で勝負しなくてよい、ということです。
他省庁の認定が加点になる
審査では、他省庁の認定取得状況が加点要素となります。具体的には、くるみん・えるぼし・スポーツエールカンパニー2026・食育実践優良法人2026・令和7年度なでしこ銘柄・令和7年度がん対策推進優良企業が挙げられています。
第6回の検討会には、スポーツ庁・農林水産省・こども家庭庁・国立成育医療研究センターがそれぞれ資料を提出しており、健康経営が省庁横断のテーマになりつつあることがうかがえます。
中小企業でも比較的取り組みやすいのは次の2つです。
- スポーツエールカンパニー(スポーツ庁)——従業員の運動・スポーツ活動の促進に取り組む企業を認定
- 食育実践優良法人(農林水産省)——従業員等の食育に取り組む企業を顕彰
すでに健康経営で運動施策や食生活改善に取り組んでいるなら、同じ活動で別の認定も狙える可能性があります。
選定スケジュール
| 時期 | 内容 |
|---|---|
| 〜10月中 | エントリー(申請書のアンケート設問に記載) |
| 11月末 | 前提条件に基づく審査対象の抽出 |
| 12月末 | 事務局採点(中小規模法人100社ほどを選定) |
| 1月下旬〜2月上旬 | 審査委員による審査(中小規模法人40社を選定) |
| 3月 | 選定企業の公表(企業名・取り組み概要・審査員コメント) |
中小規模法人は業種・従業員数・所在地に偏りが出ないよう配慮して選定されるとされています。都市部の企業ばかりが選ばれる設計ではありません。
エントリーの締切は認定申請と同じ10月16日です。申請書を書く段階で意識しておかないと、エントリーの機会そのものを逃してしまいます。
学生は、健康経営をどう見ているか
最後に、採用に直結する調査結果をご紹介します。経済産業省は2026年7月5日に学生座談会(参加者24名)を実施しました。
企業選びの軸について
- 給与・処遇だけでなく、職場の雰囲気・ワークライフバランス・健康を害さず働けることも重要な軸として挙げられた
健康経営の認知度について
- 認知度は低く、名称を知っている学生はほとんどいなかった
- 言葉自体は硬く伝わりにくい印象。一方で、具体的な施策(治療と仕事の両立、食事支援等)を知った後は「社員を大切にする企業」という印象を持つ声が多かった
若年層に届く伝え方について
- 就活サイト上で、給与や福利厚生と並ぶ項目として健康経営を表示すると目に留まりやすい
- SNS採用広告、大学内チャネル(キャリアセンター等)の活用
- 保護者向けの情報発信も有効
ここから読み取れる実務的な示唆は明確です。「健康経営優良法人認定企業です」とロゴを貼るだけでは、学生には伝わりません。「治療と仕事を両立できる制度があります」「健診はこのように支援しています」と、具体的な施策の言葉で書くほうが確実に響きます。
経済産業省は今後、保護者向けセミナー(8〜9月)、学生向けセミナー(10月、12月〜2月)を実施し、各地域で若年層と健康経営優良法人のマッチングも検討するとしています。
連載のまとめ
全3回で見てきた内容を整理します。
| 回 | 要点 |
|---|---|
| 第1回 | 中小企業の認定率は0.69%。認定企業の離職率は同規模平均を大きく下回る。補助金の加点対象はさらに拡大する方針 |
| 第2回 | 申請は8月17日〜10月16日。⑭は「長時間労働の予防と事後対応」へ統合され、来年からは両方必須 |
| 第3回 | 国の支援体制が各地域で整備中。中小企業40社のベストプラクティス選定が新設 |
健康経営は、「余裕のある会社がやること」から、補助金・採用・人材定着に直結する経営手段へと明確に位置づけが変わりました。国の支援も、これまでにない厚さで用意されています。
当社は京都府宇治市を拠点に、京都・大阪・兵庫・滋賀・奈良の中小企業さまの健康経営を支援しています。代表の大塚は健康経営エキスパートアドバイザーとして、健康宣言の段階から認定取得、そしてブライト500まで、企業の状況に応じて伴走しています。
「うちの規模でも認定が取れるのか」「何項目満たせているのか分からない」——そうした段階からで構いません。2027年認定の申請締切は2026年10月16日です。まずはお気軽にご相談ください。
※本記事は経済産業省「第6回 健康経営推進検討会」資料(2026年7月14日公開)に基づいています。記載内容には検討会での提案(案)段階のものが含まれます。